空が白かった。
その白い空から、細い雨筋が垂直に落ち、アトーチャ駅のホームの石畳を
黒く濡らしている。
葡萄色をしたエクスプレソの車体も、Cadizと書かれた終着駅の表示板も
雨に濡れて光って見える。
発車時刻の早い列車のためか、車内はがらんとしている。ぼくは雨に曇った窓ガラスを
指でぬぐった。・・・・・
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サナエは曇った窓ガラスにGibraltarと指で書いた。ガラスの文字はすぐに
雫になって流れた。
アマリリス 所収 「ジブラルタル」 安西水丸
いかがだろうか。 色彩のある文章といえばいいのだろうか?。
安西水丸の 文章は読者を 限りなく リラックスさせてくれ 忘れていた何かを
感覚として思い出させてくれます。 最上の贅沢な時間。
装丁は もちろん 水丸氏本人です。